第12代体操のお兄さんで、現在も多くの子どもたちと関わる“誠お兄さん”こと福尾誠さんに、忙しい毎日の中で、親子が笑顔になれる時間をどうつくればよいのか。子どもとの向き合い方や、気負わずに育児を楽しむヒントを伺いました。

子どもの「爆笑」が、僕の活動の原動力
――誠お兄さんが子どもたちと接していて、「この瞬間が好き!」と感じるのはどのようなときですか?
子どもたちが爆笑している瞬間ですね。楽しんでもらいたいと思って準備をして、実際にキャッキャと笑ってくれると、本当に何もかも忘れられます。セリフさえ忘れてしまうくらい(笑)子どもの笑顔には、それほど大きなパワーがあります。僕にとって、活動を続ける原動力です。
――子どもたちと交流する際に大切にしていることを教えてください。
「同じ目線に立つこと」を大切にしています。子どもと大人では身長が違うので、まずは物理的に目線を合わせる。そして、心の目線も合わせ、子どもと対等であることを意識しています。
何かを一方的に「教えてあげよう」とした瞬間、そこに壁が生まれてしまう気がするんです。僕が大切にしているのは、1から10までを教える「ティーチング」ではなく、10にたどり着くための最初の1を伝え、そこから一緒に進んでいく「コーチング」。子どもによって、10までの道のりは違っていいと思っています。

――子どもの自由な発想を尊重する一方で、ルールを伝えることも必要ですよね。
もちろん、子どもだから何をしてもよいということではありません。まずは、子どもの気持ちや考えを否定せずに受け入れる。その上で、なぜルールがあるのか、やってよいことといけないことは何かを、きちんと説明することが大切です。最初から「ダメ」と決めつけるのではなく、受け入れてから一緒に考えていく。それも一つの優しさだと思います。
子どもの「楽しい!」を育む3つの時間
――子どもは、どのようなときに「楽しい」「うれしい」と感じるのでしょうか?
僕は、3つあると思っています。1つ目は、夢中になって取り組む時間。2つ目は、チャレンジして「できた」と感じる時間。そして3つ目は、自分の気持ちや好きなことを、言葉や体で表現する時間です。この3つが重なると、子どもにとって、とても楽しく、うれしい時間になります。特別な事をしなくても、毎日の暮らしの中に、そんな瞬間はたくさんあります。
――福尾さん自身は、子どもの頃、どのような時間が楽しかったですか?
体を動かしている時間が大好きでした。子どもの頃に楽しかった経験や、認めてもらった経験は、大人になっても覚えていますし、自然と体に染みついています。だからこそ、子どもたちにも「楽しかった」「うれしかった」と心が弾む経験をたくさんしてほしいと思っています。

「ちゃんと」を手放し、評価よりも共感を大切に
――子どもと「ちゃんと遊ばなきゃ」「ちゃんと向き合わなきゃ」と、気負ってしまうパパやママもいます。
「ちゃんと」という言葉を、いったん手放してみてもいいと思います。「ちゃんと」が付いた瞬間に、正解や100点を求めてしまう。でも、子育てって、不正解はあるかもしれないけれど、正解はないと思うんです。もし正解が一つなら、みんな同じ人に育つはずですよね。
理想を持つことは悪いことではありません。ただ、周りからどう見られるかという「評価」を気にするより、目の前の子どもと気持ちを共有する時間を大切にしてほしいです。
――子育てをしていると、つい頑張りすぎてしまうこともあります。
頑張ろう、向き合おうとする気持ちは大切ですし、その思いは子どもにも伝わります。でも、頑張りすぎなくていい。頑張りすぎると、イライラしたり、うまくかみ合わなくなったり、自分を苦しめたりすることがあります。育児を「こうしなければならない」という義務にせず、パパやママにも楽しんでほしいです。

長さより中身。3分でも、触れ合う時間には価値がある
――忙しい毎日の中では、子どもと過ごす時間を十分に取れないこともあります。
大切なのは、一緒にいる時間の長さではなく、中身だと思います。1日中一緒にいても、お互いにスマホやタブレットの画面だけを見ている時間と、たとえ3分でも、手をつないだり、ハグをしたり、くっついて遊んだりする時間は別物です。短くても、しっかり触れ合う3分には大きな価値があります。
スマホやタブレットが悪いということではありません。便利なものは上手に使いながら、画面を見る時間とコミュニケーションを取る時間を分けて考えることが大切です。
――忙しいと、「今は無理」と子どものお願いを断ってしまうこともあります。
すぐに突っぱねるのではなく、ゲームに変えるのも一つの方法です。例えば、「肩たたきを50回してくれたら起き上がれるかも」と伝えてみる。子どもも主体的に参加でき、「自分の力でお父さんやお母さんを元気にできた」という自信につながるかもしれません。
大人が全力で楽しむ姿が、「やってみたい」を引き出す
――子どもの「やってみたい」という気持ちは、どうすれば引き出せますか?
子どもには、まだ知らないことがたくさんあります。どのようなものか分からないから、「怖い」「やりたくない」と感じるのは自然なことです。そんなときは、大人が先に全力で楽しむ姿を見せてあげてください。お父さんやお母さんが本気で楽しんでいたら、「自分もやってみようかな」と思えることがあります。
そして、挑戦したら、できたか、できなかったかだけで評価しないこと。ゴールに届かなかったとしても、「高く跳べたね」「ここまでできたね」と、過程やできた部分を見つけて言葉にしてあげてください。ゼロから一気に100を目指すのではなく、その途中にある一つひとつの「できた」を認めることが、次の一歩につながります。
――予定どおりに進まないときは、どう考えればよいでしょうか?
例えば、公園へ行く途中で、子どもが花を見つけて立ち止まったとします。大人が決めたゴールは公園でも、子どもにとってその日の思い出は、お父さんやお母さんと一緒に花を見て「きれいだね」と話したことかもしれません。目的地に急ぐより、途中で生まれた興味や発見を一緒に楽しむ。僕は、その瞬間こそ大切にしてほしいと思っています。
教えて!誠お兄さん おうちでできる親子遊び
特別な道具や広い場所がなくても大丈夫。家事やお手伝いなど、日常の動きを遊びに変えれば、親子で笑いながら体を動かせます。誠お兄さんに、すぐに試せる2つのアイデアを教えてもらいました。

① 家事をゲームに変える
脱いだ服を頭に乗せ、落とさないように洗濯物のカゴまで運びます。いつもの片付けが、バランス遊びに早変わり。遊びながら体を動かせて、お手伝いにもなります。家庭ごとの家事のやり方に合わせて、オリジナルのルールを考えるのも楽しそうです。
② 見たものをまねする指遊び
大人が出す「グー・チョキ・パー」を、子どもがまねします。慣れてきたら、「グー」と言いながら手は「チョキ」を出すなど、声と動きを変えてみましょう。上手くできなくても、それ自体が親子で笑い合うきっかけになります。
親も、自分の「好き」を楽しんでいい
――気持ちに余裕がないとき、パパやママはどうリフレッシュすればよいでしょうか?
子どもの好きなことに合わせて遊ばなければならない、というルールはありません。お父さんやお母さんの「好き」も、子どもと共有してみてください。音楽が好きなら一緒に聴く。甘いものが好きなら一緒に味わう。ときには、子どもに大人の「好き」に付き合ってもらってもいいと思います。
大人が楽しんでいる姿を見せることは、子どもにとって、世の中にはいろいろな人や、いろいろな「好き」があると知る機会にもなります。そして、親自身も好きなことに向き合える。子どもに合わせるだけでなく、親子でお互いの「好き」を知る時間にしてほしいです。
――最後に、子育て中のパパとママへメッセージをお願いします。
頑張りすぎず、周囲の評価を気にし過ぎないでください。子どもと過ごす時間は、長ければよいというものではありません。たとえ短くても、親子で触れ合い、一緒に笑い、コミュニケーションを取る時間を大切にしてほしいです。
「子育てのプロ」という言葉がありますが、僕は、それぞれの家庭のお父さん、お母さんこそ、その家庭の子育てのプロだと思っています。自信を持って、子どもたちとの時間を楽しんでください。
【福尾誠さん PROFILE】
順天堂大学大学院にて博士号(スポーツ健康科学)を取得。「体操のお兄さん」を4年間務め、現在は自身が代表を務める「coseiro」にて、こどもの“こせいを彩る体験プログラム”を監修・考案。全国でイベントや講演活動を行っている。2026年より順天堂大学スポーツ健康科学部特任助教に就任。
