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男性の育業を推進し、夫婦で協力して子育ての大切さを学ぶ
「企業版両親学級」は、企業にも従業員にもメリットばかり!

塚越学さんの写真

塚越学さん(NPO法人ファザーリング・ジャパン理事)

 「企業版両親学級」をご存じでしょうか。従業員だけでなく、企業にとってもメリットが多いことから、近年実施する企業が増えています。15年以上にわたり父親支援活動を続け、「企業版両親学級」の講師としても活躍するNPO法人ファザーリング・ジャパン理事の塚越学さんに、企業が両親学級を開催する意義について伺いました。

「企業版両親学級」とは? 自治体主催の「両親学級」との違い

 これから子供が生まれる人に対して、自治体や産院、企業が開催する学びの場が「両親学級」です。
自治体や産院で行っている「両親学級」は、助産師や保健師が講師を務めるのが一般的で、妊娠中の体の変化やお産に関する知識、沐浴やオムツ替え体験など、妊娠・出産、出産直後の育児について学びます。
一方、「企業版両親学級」は、企業が従業員に向けて開催するもので、最近は、配偶者も参加可能な企業が増えています。ビジネスパーソンが講師となることも多く、主に仕事と育児の両立に関する制度や活用法を学び、キャリアの在り方や、配偶者と協力して子育てすることの大切さを学びます。
「両親学級」も「企業版両親学級」も、パパママになるための大切な学びの場です。

 

「両親学級」と「企業版両親学級」の特徴比較

両親学級 企業版両親学級
主催者 自治体や産院が開催 従業員とその配偶者を対象に企業が開催
講師 主に、助産師、保健師 主に、子育て経験があるビジネスパーソン
主な内容 妊娠・お産、新生児育児のコツやヒント 仕事と育児の両立、両立のための制度内容と活用方法、子育てとキャリアの在り方、配偶者との協力の大切さ

 

 

「育児脳」が形成される産後の一番大事な時期に、夫婦の協力関係を築こう

 「企業版両親学級」は、主催する企業のニーズによって内容は様々です。私は、企業や参加者の属性に合わせて時間の長さや学習内容を変えていますが、一例として、次のようなプログラムで講義を進めています。

プレパパ、プレママセミナー プログラムの例

 

 産前産後の女性の変化や新生児育児が仕事よりも大変な理由を説明したり、「子育ては母親がするもの」という本人や周囲が思い込む構造を伝えたり、育業前後の働き方、夫婦のキャリアの在り方についてアドバイスをしています。

 「夫婦の危機は産後にある」ともいわれ、里帰り出産などでママだけ育児スキルがどんどん上がってしまうと、その成長角度の差はなかなか埋められません。結果としてママの負担が増えて、仕事との両立もままならなくなってしまいます。
 女性は子供を産んですぐに“母親”になるわけではなく、産後2、3か月の育児経験が脳を変化させて子供への愛情が深まり、育児能力が向上することが生物学的にわかっています。
 男性も産後間もない時期に同じ経験をすれば、同じ変化が脳内で起こります。そのためにも私は「産後パパ育休(出生時育児休業)」の取得を特におすすめしています。“育児脳”が形成される産後の一番大事な時期に、パパとママが同じスタートラインに立って一緒に育児を経験し、成長角度を同じにすることが、理想の協力関係を築いていくための第一歩といえるでしょう。

学ぶ場が男性の意識改革のきっかけに “取るだけ育休”問題の解消にも

 2022年の育児・介護休業法改正によって、男性の育業推進が企業に義務付けられました。新たに「産後パパ育休(出生時育児休業)」も始まるなど、男性の育児参画がさらに進むことが期待されています。しかし一方で、育業中に男性がほとんど育児をしない“取るだけ育休”の問題もクローズアップされています。“取るだけ育休”がどうして起こるかというと、これまで男性が家事・育児を学ぶ場がほとんどなく、男性の育業がなぜ大事なのかという意味を本人が理解できていないからです。「企業版両親学級」の受講で、育業取得の目的やタイミング、育業ライフの過ごし方を知れば、“取るだけ育休”の問題は解消できます。

 また、男性従業員はこれまで、子供が生まれてから会社に報告するケースが多かったのではないでしょうか。「企業版両親学級」を導入し受講を必須にすれば、企業は男性従業員の配偶者の妊娠情報を早期にキャッチでき、育業時期についても早めに把握できるようになるため、仕事の分配や人員の計画を立てやすくなります。

育業取得率がアップ!受講者からポジティブな声が続々

 「企業版両親学級」を開催し、開催前の男性の育業取得率が約40%だったものが約60%にアップするなどの成果が出た企業もありました。また、受講者のアンケートでは、「これまでの父親としての育児に対する意識の低さを実感した」「パパとママの求めるものの違いなど、育児家事を振り返りながら納得・反省するものも多かったです」という気づきや反省の意見をはじめ、「新生児期の夫の育休取得でその後の夫婦関係が変わるというところは大変興味深いテーマでした」「育児もキャリアの一貫と捉えることができた」「育児自体が仕事力をつけ、チームの強化になるという視点をもつことができた」などのポジティブな声がたくさん寄せられています。

男性が育業しやすい雰囲気の醸成や働き方の改善効果も

 今回の法改正で一番変わったのは、妊娠出産の申し出があった従業員に対しては、男女を問わず「育休はどうしますか?」と、企業側から個別に意志確認をしなければならない点です。しかし、特に男性従業員の場合、職場に迷惑をかけるなどの理由からなかなか言い出せないケースも多く、東京都が実施した「男性の家事・育児実態調査」(※リンク)でもこうした現状が明らかになっています。「男性は育休希望を取得直前で言ってくる」なんて苦言を呈する上席者がいますが、私は管理職研修などで「直前まで言いにくい職場を作ってしまったんだなと、経営者や管理職が反省してください」と話しています。また、男性の育業がなかなか進まない企業の人事担当者から、「職場の雰囲気を変えるにはどうすればいいですか?」と聞かれることもあります。
 「企業版両親学級」は、このような問題の解決策としても有効です。企業が主体となって開催することで、「うちの会社は子育てを応援してくれる」という安心につながり、育業しやすい雰囲気が醸成されます。また、講座内のグループワークやフリートーキングでパパママになる従業員が同じ立場で語り合うことで不安が解消され、社内に子育て世代のネットワークが生まれて情報共有しやすくなります。
さらに、育業を経験した従業員は、育児との両立実現のために仕事の効率アップを考えるようになるため、働き方の改善につながるといった側面もあります。

中小・零細企業も工夫次第で開催可能 トップのリーダーシップで一歩を踏み出そう!

 企業と従業員の双方にとってメリットが多い「企業版両親学級」ですが、中小・零細企業の場合、例年子供が生まれる従業員がそれほど多くないため、開催しにくいという側面もあると思います。例えば、取引先に声をかけて合同で開催したり、各地域の経営者団体や業界団体などに主宰者になってもらい、参加する企業を募ったりするのも一案です。賛同する企業が増えれば、各企業の負担も軽くなって予算的な問題もクリアできます。「うちは無理」とあきらめず、経営者が自ら率先して一歩を踏み出しましょう。