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「子育ては女性の仕事」というアンコンシャス・バイアスから自分を解放しよう!
~育休後コンサルタントの山口理栄さんが働くママにエール~

 アンコンシャス・バイアスとは、知らず知らずのうちに抱いてしまっている「無意識の思い込み」のこと。職場や家庭など日常のあらゆる場面に潜んでいます。会社員時代に2度育児休業を取得し、退社後は、育休後コンサルタントとして、働くママ・パパをサポートしている山口理栄さんに、仕事と育児の両立とアンコンシャス・バイアスをテーマにお話を伺いました。
山口理栄さん写真

出産前と同じように働けずに悩むママたちの現状

 育児休業から仕事復帰した女性の悩みで多いのは、キャリアについての心配事です。時間に制約があり、出産前と同じように働けないママが多くいます。そうした状況の中、不安を感じるのは当然のことだと思います。「以前と同じレベルの仕事を与えてもらえない」「自分はもう当てにされていないのではないか」などといった不安や不満を持つ人は多く、「職場に迷惑をかけているのではないか」「周りの人に申し訳ない」という声もよく聞きます。
 また、夫は育児を分担したいと思っているのに、夫の職場が男性の育児に対する理解や配慮に欠けるため、分担が上手くいかずに悩んでいる人も多いです。例えば、女性に対しては、「早く帰らなくて大丈夫?」という声がけがあっても、男性にはなかったりします。そうすると、男性が早く帰って子供をお風呂に入れたいと願っていても叶わずに、妻である働くママにしわ寄せが来て、結果的に仕事と育児の両立を難しくすることにつながってしまうんです。

働くママが抱えがちなアンコンシャス・バイアス

 講演やセミナーで育児休業後のキャリア形成についてお話をすると、参加してくれたママから、「子供が生まれてもキャリアを維持する働き方をしてもいいんですね」と驚かれます。
 育児休業後はキャリアをある程度あきらめて、仕事をセーブしていくしかないと考えている女性がそれだけ多いということです。「子育ては女性の仕事」というアンコンシャス・バイアスによって、子供の面倒は女性がみるものと思い込み、自分で自分を苦しめてしまっているんです。

 東京都の「性別による『無意識の思い込み』エピソード100選(https://www.seikatubunka.metro.tokyo.lg.jp/danjo/wlb_top/0000001780.html)にもありますが、子供が熱を出した際に、時短勤務のママが休んで面倒をみなきゃと焦っていたら、パパから「有給を取るよ」と言われてハッとしたなどというのは、アンコンシャス・バイアスの代表的な例です。性別による無意識の思い込みエピソード100選のイラスト

 また、会社によっては育児休業後に仕事復帰した女性が、全員そろって時短勤務というところもあります。そのような職場環境では、本当はフルで働ける人でさえ「みんなが時短だから、私も時短で復職するのが当たり前」と思い込んでしまう人もいます。自分の可能性を広げるためには、キャリアを諦めたり遠ざけたりする原因になっているアンコンシャス・バイアスに気づくことが大事な一歩です。育児休業後の仕事復帰は、自分自身を縛っていたアンコンシャス・バイアスと向き合うチャンスともいえるでしょう。

夕方6時以降は子供と過ごす「育児のコアタイム」に

 仕事復帰をすることで、「子供と過ごす時間が少なくなってしまう」と不安を感じるママも多いと思いますが、一緒に過ごす時間を増やそうと考えるよりも、過ごし方を工夫することが大切です。私は夕方6時から夜10時までが、平日の「育児のコアタイム」だと考えています。その時間は、夫婦の少なくとも一方が子供の相手をしてあげるのが理想です。子供は大人と違って、遊びと食事やお風呂の時間を分けて考えないので、パパママと過ごす時間はすべてが楽しい遊びの時間です。4時間集中して子供と向き合いましょう。
 そして、子供との時間を充実させるために、家事を「さぼる」ことを考えましょう。例えば、料理は手間なく作って、食事を楽しむことに時間を使う。パパの方が、料理が得意なら、パパに頼んでもいい。便利な家電を導入するのも「さぼる」手段の一つです。夫婦で協力して、「育児のコアタイム」に子供と向き合うことで、子育ての不安や負担は軽くできるはずです。

育児のコアタイムイラスト

パートナーとは本音で話し合いを

 最近は、子供が生まれたら育児に参加したいと思う20・30代のパパが増えています。これまでお伝えしたような決めつけや思い込みを持たずに、お互いの育児に対する考え方を本音で話し合ってみると、相手に対する新しい発見もあるのではないでしょうか。
 また、パートナーには、仕事に対する自分の意欲や働き方についての希望をしっかり伝えておくことも大切です。「キャリアアップのために最初からフルで仕事復帰したい」とか、「長期間の時短勤務をとりたくない」と思っているのであれば、「きっと無理だろう」と思い込んで口にしないのではなく、まずは、自分の思いをパートナーに伝えましょう。実際に私が聞いた事例でも、育児休業後の仕事について話し合った結果、夫が時短勤務をして、妻はフルのまま仕事復帰した方もいます。少し前の日本では考えられなかったような家事分担も、今はそれぞれ工夫してやっている家庭が多いので、本音をぶつけて自分たちならではのやり方を作っていくことが大事なのかなと思います。

仕事復帰するにあたって大事なことは「両立する覚悟」と「事前準備」

 育児休業後のママから、「仕事復帰すると子供に優しくできなくて当たってしまいそう」という声もよく聞きます。そうならないためには「子供に対してストレスをぶつけたりすることは絶対にしない」と覚悟を決めることが大切です。そのための事前準備として、いざという時の備えをしておきましょう。子供の急な発熱や病気は、必ずあることです。その際にどうするのか、事前に考え、自分とパートナー以外にも、お互いの両親や兄弟姉妹、ベビーシッターに頼るなど、出来るだけ多くの選択肢をもっておくことが理想です。それから、家電や家事代行などを利用して家事を省力化することも大事です。
 また、パートナーやお互いの両親と育児を分担するのであれば、情報共有アプリを導入するのもおすすめです。仕事の予定や保育園の予定を共有して、誰が対応するのかをすぐに決められるカレンダーアプリなどが便利だと思います。

「完璧」よりも「早め」を意識して仕事を進めよう

 会社に対しては、出産前と仕事復帰前に上司と面談を行うことを10年以上前から提唱しています。育児休業後も以前と同じように働きたいと思っているのであれば、朝は保育園の送りがあるので出社は何時にしたいなど、時間の制約についての根拠を明確に示して、上司の理解を得ましょう。その上で、例えば、在宅勤務の日数を増やしてほしいと交渉する際も、通勤時間がなくなり生産性もあげられるなど、自分の希望と会社にとってのメリットを、しっかりと伝える必要があります。
 また、復帰直後の仕事の進め方で意識して欲しいのは、100%の完成度を目指すのではなく、70~80%程度の完成度でも、早めに仕事を回していくということです。時間に制約があったり、子供が熱を出すなど突発的な出来事も起きやすかったりする間は、余裕を持って、例えば、早めにPDCA(計画、実行、評価、改善)のサイクルを回していくような仕事のやり方が大切だと思います。そのためにも、仕事の優先順位をしっかりつけて処理していくことが大事です。また、自分の仕事を「見える化」し、他の人に引継ぎしやすくしておくことも意識してみてください。

人生100年時代。挽回のチャンスは必ず訪れる!

 仕事と育児の両立は、子供が18歳、20歳になるまでずっと続く長丁場です。中でも、子供が小さくて手がかかる、仕事復帰直後が一番大変です。そこで、壁にぶつかったり悩んだりすることがあっても、決して諦めないでください。育児で自分のやりたいことが中断されたとしても、それは「諦めた」のではなく、「保留」にしているだけのことです。5年後、10年後、自分の未来を中長期的に見れば、子育てが落ち着いた後に挽回のチャンスは必ず訪れます。40代、50代からでもキャリアアップは可能なので、人生100年と考えて、焦らず心配せずにゆっくり歩んでいきましょう。
 アンコンシャス・バイアスについて知ることが、後で振り返って「あの時の自分の気付きがプラスに働いた」と思えるきっかけの一つになればと願っています。

 


山口理栄/育休後コンサルタント®
 総合電機メーカーでソフトウェア開発に従事。社内で女性活躍推進プロジェクトのリーダーを務め、2010年に育休後コンサルタントとして独立。企業や官公庁、自治体に女性活躍推進コンサルティング、社員向けセミナーを提供。育休後アドバイザー養成講座で後進を育成中。個人向けには、育休後のキャリアについて安心して語れる場として「育休後カフェ®」を主宰、「育休後カフェ・ファシリテーター認定講座」を開催するなど、働くママ・パパ同士が共に考え学ぶ場を全国に広げるための活動にも力を入れている。著書に『改訂版 さあ、育休後からはじめよう ~働くママへの応援歌』(労働調査会)と、『子育て社員を活かすコミュニケーション【イクボスへのヒント集】』(労働調査会)がある。