『TOKYO“育業”会議』の最終回(第1回はコチラ、第2回はコチラ)は、「とるだけ育休」問題や育業の楽しさについて、意見を交わしました!
<参加者>
■羽生祥子(日経xwoman 客員研究員、著作家・メディアプロデューサー)
■山口理栄(育休後コンサルタント)
■青野慶久(サイボウズ株式会社 代表取締役社長)
■黒田高史(会社員 4児の父 3度の育業取得経験あり 12月に5人目誕生予定)
■小原功嗣(会社員 2児の父 現在2度目、1年1か月の育業中)
※ファシリーテーター 杉山錠士(子育て情報サイト「パパしるべ」編集長)
(敬称略)
どうする?男性の「とるだけ育休」
―(杉山)ママ向け育児アプリ「ママリ」を運営している株式会社コネヒトの調査によると、育休中に家事育児時間が1日に2時間以下というパパが3人に1人いて、「とるだけ育休」とも言われ問題視されています。青野さんはこれを聞いてどう感じましたか?
青野
特に1人目の子供だと、大人2人に対し、子供1人になるじゃないですか。それで、「妻がやるから、自分にはすることがない」という感じになってしまう人がいるのは、想像がつきます。だったら、パパ一人で育児をする機会を意識的に作った方がいいと思うんです。特におすすめは2泊3日とかで完全に妻が家にいない状況を経験してみること。2泊3日ぐらいあると0歳児には必ずトラブルが起きるんですね。そういう修羅場みたいな感覚を1回経験しないと、オムツを替えただけで育児をした気になってしまうんじゃないかな。「いや、育児はそうじゃないから!」って。
小原
大賛成です!私もまさに1回目の育業の時にそういった場面に直面したからこそ、成長できたなと思っています。娘を泣きやませるために考えつく限りのことをしてもダメで、妻に助けを求めたら「自分で考えてみて!」と返されたことをきっかけに、育児全般について主体的に取り組むようになりました。その結果、子育てに必要な段取りを理解して素早くできるようになったり、予想外の事態に落ち着いて対応できるようになったりしたので、パパの育児スキル向上に必要な修業だと思います。
黒田
そもそも子育てする前から家庭のことが女性中心になっていることが、良くないんじゃないですかね。男性はあくまで「手伝う」という感覚。「点」でしか交わってない。なので、子供が生まれたとしても、女性が子育てを主導し男性が子育てを「手伝う」関係にしかならない。だから、やっぱり「線」で、男性が責任を持って家事育児を担当してみるのが良いと思うんですよ。完全に立場を交換して、まずはやらないとわからない。青野さんがおっしゃった通り、妻がいなくなる経験をしてみるのは、ものすごくいいですよね。
羽生
私、それを実践したんです。ちょっと極端なんですけど、私は第二子が0歳の時に断乳も兼ねて20日間アフリカに出張を入れました。夫からはLINEで「おかげさまで修羅場です」という言葉とともに、0歳が海老反りになって泣いている写真が届きましたけど、二人目ということもあり、「はいはい、パパとして育ってるね」と見届けていました。心配しすぎるママたちは、このくらいパパに預ける度胸も必要かも。あと、男性の育業が、“初めての家事”にならないようにするには、小さい頃から家庭での教育が大事ですね。娘には皿洗いして、洗濯物取り込んでと言うのに、息子には言わない親が多い。その教育が蓄積されて、“30歳で育業する“となったときに、「家事育児なんてムリ!」となってしまう。家庭の中での固定的な性別役割分担意識をなくすことも重要だと思います。
山口
私は「とるだけ育休」は、今は過渡期ということもあり、あんまり気にしなくていいと思っています。会社から言われて取ったとか、主体的に取ってない人だったりするのかなと。あとは、ご両親が見てくれているから自分の出る幕ではない、家事育児をする必然性がないとか、パートナーが自分にやらせてくれないとか、単純に何をしたらいいかわからないとかいうのが、総合的にそういう現象になっているのでしょう。今後、より主体的な育休の取り方が共有されるにしたがって、「とるだけ育休」という言葉は消えていくと思います。
― 最後に、子育てをしている方や、これから育業する方に向けて、メッセージをお願いします。
子供が元気でさえあれば、子育ては100点!
青野
自分を振り返って思うのは、どこかで逃げようと覚悟が決まらずにやっているときは、育児が楽しくない。でも「やるしかない」と覚悟を決めた瞬間に楽しくなるんですね。迷いがなくなるというか。時間を取られるのは当たり前だし、子供は言うことを聞かないのも当たり前。でも、やるしかないというところまでいくと、育児は楽しいということを知っておいてほしいと思います。子供は日々、幸せをもたらしてくれます。あと、子育てって、精神的にも肉体的にも子供が元気だったら、もう100点のような気がします。100点以上を狙いにいって苦しんでいる人が多い。飲み物をこぼしちゃったとか、野菜を食べないとか。野菜を食べるかどうかはプラスアルファ。まずは元気だから100点。この感覚を持っておくと、子育てが楽だと思いますよ。
「線」で育児を楽しめる
黒田
育業は、「点」と「線」で言うと、「線」で育児を楽しめるところが最大の特徴かなと思います。どうしても仕事をしながらだと、仕事があって育児があって家庭の事があってと、「点」でしか関わっていけないんですよね。それを「線」で関われるのが、育業です。ずっと子供と一緒にいて、家族と一緒にいて、その成長を見られるというのは、やっぱり「点」とは大きく違うもの。育児は楽しまないと損です。育業は仕事から離れ、人生を見つめ直して組み替えていく良い時期だと思いますし、家族のことを真剣に考える本当に素晴らしい機会だなと思っています。
仕事じゃ味わえないサイクルのスピード感と自己成長の日々
小原
もちろん、家族の絆が深まる、家の中でのパパのバリューが上がって、居場所ができるというのもあるんですけど、それ以上に日々の成長をこんなに楽しめることはない。例えば、栄養学を学んで献立を考え、料理を作って食べさせると子供たちから反応がすぐ返ってきます。自分の駄目さも痛感するけど、解決策もあるから、またチャレンジしたくなる。このサイクルは仕事じゃなかなか味わえない速さで自己成長を毎日感じることができるので、めちゃくちゃクセになって楽しいんですよね。
「育業」は子育ての助走期間
山口
私は、子育てのゴールは、子供が社会に出て1人で生きていける力をつけて送りだすことではないかと思っています。子供が独り立ちするまでの間、生活費や教育費など、経済的基盤を作るために親は働いている。もちろん自身のやりがいもあるけれど、やっぱり生活の基盤、経済的基盤を整えて、子供にたくさんの選択肢を用意するために働き続ける必要があるわけです。そういう意味では育業はほんの助走期間に過ぎません。育業が終わってからの15~20年ぐらいが正念場。親にとっての仕事と子育ての両立は、ここからが本番です。パパたちにも、育業のあとに目を向けて欲しいです。
育業は家族の「青春時代」
羽生
私は育業のあの時期が青春時代だったと思います。乳幼児の数か月がやっぱり印象的で、何かとそこに戻ります。夫婦の仲だって、自分のキャリアだって、子供との関係だって、大波小波ありますよ。だけど、その度に育業中のときを思い出しますね。育業の真っ最中は、そんな余裕はないですよ。まさかそれが10年後20年後にそんなお守りみたいな経験になるとは思いませんでした。それほど特別なときだと思うので、ぜひ楽しんでほしいです。
(終わり)
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