絵本の読み聞かせは親にとっても子供にとっても楽しい時間ですが、子供の成長にとってはどんな意味があるのでしょうか。発達心理学と保育学が専門で、読み聞かせの研究をしている東京大学・発達保育実践政策学センターの准教授、野澤祥子さんに伺いました。
子供は絵本から言葉を獲得していく
読み聞かせをすると、その途中で子供が絵の中の何かに興味を持ち、指を差したりすることがあると思います。そのときに親が「これは○○だよ」と教えてあげると、子供は物の名前などを知ることになります。子供は1歳後半ころから「語彙爆発」といって、ボキャブラリーが一気に増える時期に入りますが、このころにいろいろな絵本を読むと、たくさんの言葉を獲得することにつながります。普段の夫婦や親子の会話よりも、絵本で使われる言葉はバリエーションが豊富であるという研究結果もあります。
私の研究の中で起きたことなんですが、読み聞かせでお話に長靴が出てきたときに、1歳10か月くらいのある子供が「私の長靴、ここにあるよ!」と自分の長靴を指差したことがありました。その子は絵本のなかのフィクションと自分の周囲の現実とをつなげたわけです。こうやって子供は世界への認識を広げていくんですね。
ただ、読み聞かせをするときに親が言葉を覚えさせようとしすぎて、子供が楽しくないと感じるようだと、せっかくの言葉を覚えるチャンスを逃してしまうことになります。大切なのは、子供自身が楽しんで言葉を覚えているということです。
話を理解できなくても読み聞かせをする意味
実際に起承転結のあるストーリーをちゃんと理解できるようになるのは2歳から3歳くらいと言われています。しかし、理解できないとしても読み聞かせは必要だと感じます。親と子供が絵本を介して経験を共有することでコミュニケーションの濃度が高まりますし、読み聞かせの時間は子供にとって親を独占できる時間になるからです。読み聞かせの心地よい経験は、親に対する愛着や家族が見てくれているという安心にもつながります。
絵本を読んでも子供があまり反応を示さないということがあるかもしれませんが、それだけで絵本が苦手とは判断できません。絵本を読んでほしい気分ではないのかもしれませんし、ストーリーを理解できなくて、つまらないと思っているのかもしれません。そんなときは子供が絵本に興味を持つようになるまで待ちましょう。子供から見えるところに絵本を置いておくといいですよ。ふとしたときに興味がわいて、「読んで」と言い出すことがよくあります。
子供が「絵本を読んで」と言い出したときには、忙しくてもなるべく読んであげてください。子供が大きくなってくると、親も忙しいときに「ちょっと自分で遊んでいて」と言ってしまったりするものですが、子供が「読んで」と言うときは親を求めているときでもあります。絵本があれば親と一緒に過ごせると思っているんですね。そんなときは短い時間でいいから子供の気持ちに寄り添ってあげましょう。
読み聞かせは育児に関わるきっかけになる
普段あまり子供と一緒にいる時間がないという人は、子供に話しかけようとして話題が浮かばないことがあると思います。そんなときは絵本を読んであげましょう。そして絵本のなかに子供の好きなものが出てきたら、それについて話し合ってみてください。きっと会話が弾むはずです。読み聞かせは育児に関わるいいきっかけになります。
また、ママもパパも読み聞かせをすれば、子供にとっては同じ絵本でも読む人によって印象が変わるという経験の幅を広げることになります。そのうちに、「ママに読んでほしい絵本」「パパに読んでほしい絵本」が出てきたりもします。そうやって子供の興味は広がっていくのです。
いろいろな絵本を読むことは、子供が好きなことに出合うきっかけになります。
ぜひ図書館や書店に足を運んで、きっかけを作ってあげてほしいですね。