僕はソウタ。小学5年生。10歳になって自分の将来を考えはじめたら、なんだか世の中にはボクにはわからないことがいっぱいあるみたいだ。この間も妹のリコから聞かれてボクにはうまく答えられなかったことがある。
おにいちゃん!学芸会で会社って休めないの?
そんなに簡単に休めないよ、きっと。
パパにとって、私の学芸会は大事じゃないのかなぁ。
そんなことはないと思うけど、仕事はホラ、みんなでやることだから一人がわがまま言うことはできないんだと思うよ。
学芸会だってみんなでやっているもん!私、納得できない!
リコの怒りがどんどん大きくなってきた・・・。とにかく、ボクじゃわからないから、詳しい人いないかな・・・。学校から配られたタブレットで調べていると、働き方に詳しい会社の社長さんを発見!この人に聞いてみよう!サイボウズ株式会社の青野慶久社長、よろしくお願いします!
今度、妹が学芸会で主役をすることになったんです。
おお!素晴らしい!ボクにも子供がいるからわかるけど、パパも喜んだでしょ?
その・・・でも会社が休めないから、観に行けないみたいなんです。
そうかぁ、それは残念だね。
やっぱり、子供の学芸会では会社って休めないんですか?
絶対に休めないか、というと、そうではないかな。
え!休めるんですか?
そうとも言えないけど・・・。パパにとっての会社を、ソウタくんにとっての学校に置き換えて考えてみよう。
会社を学校に?
そう。例えば、パパが君に『よし!明日から家族旅行に行こう!』って言ったら、学校に家族旅行に行くから休みますって言える?
それはちょっと言えないかなぁ。
なんで?
だって、学校はそんなに簡単に休んじゃいけないし、先生にもきっと『そんなことで休むの?』って言われそうな気がします・・・。
家族で一緒に旅行に行くってとっても楽しいし、素晴らしいことじゃない?
はい、それは絶対楽しい!できればボクだって行きたいと思います。でもクラスのみんなが勉強している時に、自分だけ休んで旅行に行くなんて、ちょっと気が引けるなぁ。
パパもそれと同じなんじゃないかな?
え??
いつも一緒に働いている仲間が仕事をしている時に、学芸会に行くって言いにくいとは思わない?
あーなるほど!
そもそも会社が休みにくい雰囲気の場合も考えられるね。
どういうことですか?
ちょっと前の日本は朝早くから夜遅くまで会社のためにたくさん働く人がとてもほめられた。今はその長い時間を働くことは、健康にもよくないし、家族にも影響が出るからやめましょうと変わってきているけど、やっぱり今でも『たくさん働きなさい!』っていう偉い人がいて、休みたいとは言いにくい会社もあるんだよ。
そうか…。
パパの会社がどうかはわからないけど、会社によっては「休みたい」と言い出しにくい雰囲気のところもあるし、周りの人が働いている中で自分だけ休むとは言いにくいってことか。
青野さんの会社では学芸会で休むって言っても大丈夫なんですか?
もちろん。うちの会社では、『100人100通りの働き方』というのを大事にしていて、それぞれが“働きたい時間”“働きたい場所”“働きたい仕事“を選べるんだ。例えば子育てをしているパパやママは保育園のお迎えに行くために早く帰れる働き方を選ぶし、趣味が野球観戦という人は、試合に間に合うように早めに仕事を終えたり、趣味が魚釣りという人は、海の近くで仕事をしたりする働き方だって選べる制度にしているんだ。
仕事を勉強に置き換えた方がわかりやすいかな。今、ソウタくんは学校が決めた時間割で勉強して、先生に出された宿題をしているよね?
はい。
じゃあ、月曜日から金曜日までやらなきゃいけない勉強が決まっていて、全部終わればいつ、どこで、どんな順番でやってもいいってなったらどうかな?ある子は月曜日に算数だけやったり、ある子は水曜日までに全部終わらせたりするのがアリになる。宿題だって先生から出されたものじゃなくて、自分で何をしたらいいかを考えてやって提出すればOK。わかるかな?
そうか、水曜日までに終われば木曜日も金曜日も休んでいいってことか。
今の学校では実際にそうするのは難しいとは思うけど、会社は法律の範囲であれば自分たちでルールを作れるから、できる会社もあるんだよ。
パパも青野さんの会社にいたら、学芸会に来られたのになぁ。
別にうちの会社じゃなくても行ける可能性はあると思うよ。
どういうことですか?
労働基準法っていう法律があるんだけど、会社は休まれたら本当に困る時以外、働いている人が休みたいと言ったら基本的に断っちゃいけないルールがあるんだよ。
学芸会だったらある程度前から休みたい日は決まるし、ちゃんと偉い人とか周りの仲間に相談していれば、調整はしやすい方だとは思う。だから、もっと前から学芸会があるからその日は会社を休むと決めて、周りの人と話し合っていたら休めた可能性はあったんじゃないかな。
え!そうなんですか?でもパパは、学芸会が平日にやる時点で行けないと諦めていましたよ。パパはなんで言わないんだろう?言い出しにくいだけかな。
もしかしたらパパ自身が“会社は休んじゃいけないもの”って思い込みがあるのかもしれない。
思い込み!
そう、 “学芸会で休みたいとか言っちゃダメだ”という思い込み。でも、子供の学芸会のために会社を休むのは、今の時代、全然おかしいことじゃないと思うな。
そうですね・・残念だけどパパが休めない理由がなんとなく想像出来ました。
青野さんの会社みたいな働き方ができたら、学芸会で気兼ねなく休めることがわかった。パパの会社は今のところ100人100通りの働き方とは行かないみたいだけど、パパもリコの学芸会は見たがっていたし、来年こそは、リコの「学芸会のために会社を休む」と言えるように今日のことパパに教えてあげよう。
その日の夜、ボクはリコに青野さんから聞いた話を伝えた。リコは微妙な表情をしていたけど、なんとなく伝わったような気がする。
見てほしかったなあ。本当に面白いんだよ、オズの魔法使い。
そうなんだ。まあ、今回はしょうがないよ。
うん、ドロシーがね、ライオンたちと力を合わせて悪い西の魔女を倒すの!やっぱり、みんなで力を合わせるのって大事だよね!
うん、そうだね。みんながそれぞれの役割を果たしたら強くなったんだね。
・・・そうか!
どうしたの??
もしかして、家事ももっとみんなで分担して力を合わせれば、もう少し楽になるのかもしれないんじゃない?
なるほど。それはそうかもしれない。
パパとママはどうやって家事を分担したらやる気がでるのかな?
うーん、わからないなぁ。
おにいちゃん!パパとママで家事を分担するのって難しいの??
確かにそうだな。よし!今度はそれを調べてみよう!
<協力してくれた人 青野慶久さん サイボウズ株式会社 代表取締役社長>
1971年生まれ。愛媛県今治市出身。
大阪大学工学部情報システム工学科卒業後、松下電工(現 パナソニック)を経て、1997年8月愛媛県松山市でサイボウズを設立。2005年4月代表取締役社長に就任。
社内のワークスタイル変革を推進し、離職率を10分の1に低減するとともに、自身も3児の父として3度の育児休暇を取得。総務省、厚労省、経産省、内閣府、内閣官房の働き方変革プロジェクトの外部アドバイザーを歴任。
著書に、『チームのことだけ、考えた。』(ダイヤモンド社)、『会社というモンスターが、僕たちを不幸にしているのかもしれない。』(PHP研究所)、監修に『「わがまま」がチームを強くする。』(朝日新聞出版)がある。
(次回へ続く)