名前は付いていなくても一つひとつが大切で、その数は膨大
「名もなき家事」とは料理や掃除、洗濯といった大きなくくりの家事に分類しにくい日々の雑事です。僕はこうした雑事を148個のリストにまとめていて、例えばリビングなら「テレビの上のホコリ取り」や「観葉植物の落ちた葉っぱ拾い」、キッチンなら「製氷機の水補充」や「牛乳パックを開いて乾かす」、洗面所なら「洗面鏡のウロコ取り」など、場所別に分類しています。細々したものをいろいろと挙げていますが、人によってはもっと山ほどあると思います。
気付いてほしい!いつのまにか「誰か」がやっている家事
「名もなき家事」についてよく聞くのが、そこに仕事があることに気が付いて欲しいという声です。家族の中で「気付いた人が、気付いた時にやる」となっているケースが多く、どうしても誰かに負担が偏ってしまいます。一つひとつは小さなことでも、その数は膨大なので、イライラが蓄積されがちです。「これ、やっておいてね」と気軽に言えればいいのですが、細かすぎて、いちいち人にお願いしにくく、結局は、家族のなかで気付いた誰かが、あれもこれも抱え込んでしまうのです。
また、ママたちからよく聞くのが、「パパが家事を分担してくれるのはうれしいけれど、中途半端なのが気になる」という声です。例えば「オムツ替えをしてくれたけど、取り替えたオムツがリビングに放りっぱなし」だとか、「食器洗いをしてくれたけど、水切りカゴに食器が置かれたまま」といった内容です。放りっぱなしのオムツは誰かが処理しなければならないし、置き去りにされた食器も気付いた人が食器棚に戻すことになります。「名もなき家事」は、こんな風に中途半端にされていることから発生することが多いのも特徴です。
家事は「終わらせるもの」ではなく、「次に使うための準備」
「名もなき家事」の問題点を解消するために、一つひとつにルールを決めても、あまり効果的ではありません。「使い終わったら捨てましょう」とか、「洗ったらしまいましょう」とか、細かく決めすぎると家庭の中が窮屈になってしまいます。そこで、僕がよくお伝えしているポイントのひとつが、家事は「次に使う人が使いやすいようにする準備」という考え方です。
例えば、ご飯を作って洗い物をしたら終わりではありません。その後もまた、ご飯を作る作業は生じます。まな板やスポンジを除菌したり、包丁を研いだり、レンジ庫内を掃除するなど、次に料理をする時に使いやすいように準備をするところまでが1セットで、それらをぐるぐる回していくことが家事だと思っています。
家事をする際、次に使う人のことを意識して取り組んでみましょう。きっと、家族の反応もそれまでの「ココまでできているのに何でコレはできないの」というものから「コレもやってくれてうれしい」というように変わるはずです。
また、この意識チェンジは子供に伝えるときにも有効です。おもちゃの片付け残しがあって中途半端だった場合、「迷子になったままのおもちゃがあったら次に遊ぶときに困るよね」と言ってあげれば、お片付けの本来の意味をわかりやすく教えることができます。
家事シェアのスタイル、「シュフ型」と「担当型」とは?
家事シェアのスタイルは家庭それぞれですが、これまで10年以上かけて何千人という方たちから話を聞いてみて、「シュフ(主夫・主婦)型」と「担当型」の大きく2つに分けられると気づきました。
「シュフ型」は家事全体をマネージメントするシュフがいて、それをサポートするヘルパーが、シュフの指示のもとで家事を分担するスタイルです。
シュフ役は自分のやり方で家事をやりたい人が向いていて、ヘルパー役は細かく指示してくれた方がありがたいという人が向いています。
また、「あなたは仕事、私は家事」という役割分担がはっきりしている家庭や、共働き家庭でも家事スキルの格差が大きい場合には「シュフ型」になりやすいです。
一方の「担当型」は、「料理はパパ、洗濯はママ」などと、家事の担当を明確に決めて分担するスタイルです。料理も洗濯も細かい口出しをせずに、相手のやり方にゆだねられる人や、細かく指示されるよりも完全に任せてもらった方がやりやすいという人が向いています。
よく、「家事シェアをするなら『シュフ型』よりも『担当型』の方がいいんですよね?」と聞かれますが、夫婦のライフワークバランスなど、その時々の状況によってベストなスタイルは変わりますので、どちらでも自分たちのやりやすい型から実践してみるといいと思います。
「いつやるか」、「いつまでにやるか」を決めておこう!
「シュフ型」の家庭では、指示を出すときと出されたときに、一番ストレスが集中します。お願いしても面倒くさそうにされたり、言われた側も急に振られて戸惑ったり、双方がイライラしやすいです。
そのため、「シュフ型」の場合「いつやるか」を決めることがポイントです。例えば「ご飯の後で掃除するからよろしくね」と一声かけておくだけで、お互い心地よく家事シェアできます。
「担当型」は、担当者の自主性が一番のポイントになるので、自主性を奪ってしまう一言「いつやるの?」はご法度です。ただし、言わないといつまでもやってくれないこともあるため、「いつまでにやるか」を決めておくことが大事です。締切りを決めておけば、それを過ぎてもやってくれないときに「まだ終わってないよ」と言えます。担当者は、言われた瞬間はイラっとしても、約束を破っているのは自分なので理不尽さもなく、お互い円満に家事シェアできます。
負担を軽減し、不満を解消する「パラレル家事」
家事にまつわるイライラの2大原因に、「負担」と「不満」があります。負担は手間、不満は「自分ばっかり」という不公平感です。この問題の解消に有効なのが「パラレル家事」です。
「○○していない方が、○○する」というルールで、家事を同時に行うことです。「料理をしていない方が、お風呂の準備をする」、「掃除をしていない方が、洗濯をする」など、協力し合えていると感じると、不公平感がなくなり、負担も軽減されます。
「シュフ型」も「担当型」も我が家には向かないかも、という人は「パラレル家事」から試してみるのもおすすめです。
家事シェアで家族の信頼を築こう!
家事シェアの講演会に参加してくれたママからは、「家事シェアの話をしても、パパが全く興味を示してくれない」といった嘆きもよく聞きます。相手を変えようとするよりも自分の意識を変えることが大切で、締切りを決めてお願いするなど発信の仕方を変えるだけでも、少しずつ何かが変わってきます。
家事には、家族が心地よく暮らすための相手への思いやりが欠かせません。シェアすることで、お互いの信頼感の向上につながります。家事は、家族の関係性や信頼関係を築いていくプロセスになるということを意識しておくと、それが「名もなき家事」であっても、家庭内の不満やすれ違いが生じることも少なくなるはずです。
三木智有/家事シェア研究家
リフォーム会社勤務を経て、2006年にフリーに転身。仕事をする中で居心地のよい「家」から、居心地のよい「家庭」へと興味が広がり、2011年にNPO法人tadaima!を起業。「ただいま!」と帰りたくなる家庭が増えてほしい。その想いを実現するため、家事シェア、部屋づくりの専門家、またひとりの父親として幅広く活動している。NHK「あさイチ」やテレビ朝日「東京サイト」などのテレビ、「オレンジページ」「たまごクラブ」「日経トレンディ」などの雑誌に出演。著書に『家事でモメない部屋づくり』(檜樫書店)。メールマガジン「tadaima通信!」で「帰りたくなる家」を築くヒントを配信中。