育業スペシャル企画として開催した『TOKYO“育業”会議』の第2回(第1回はコチラ)。
「イクメン」という言葉が広く知られるようになって10年以上が経ちましたが、その間に生まれた変化や、世代間の意識の違いについて話し合いました。
<参加者>
■羽生祥子(日経xwoman 客員研究員、著作家・メディアプロデューサー)
■山口理栄(育休後コンサルタント)
■青野慶久(サイボウズ株式会社 代表取締役社長)
■黒田高史(会社員 4児の父 3度の育業取得経験あり 12月に5人目誕生予定)
■小原功嗣(会社員 2児の父 現在2度目、1年1か月の育業中)
※ファシリーテーター 杉山錠士(子育て情報サイト「パパしるべ」編集長)
(敬称略)
2022年、男性の育業はどう変わった?
―(杉山)2022年は改正育児・介護休業法の施行もありましたが、「イクメン」が新語流行語大賞を受賞した2010年からこの12年間の変化を、皆さんどのように捉えていますか?
青野
保育園の送り迎えをする男性が相当増えました。最初は送りだけだったけど、最近では、お迎えをする男性も増えましたね。うちの一番上の子が生まれた12年前には考えられなかったことです。ただ、変化に時間がかかりすぎだろうという気持ちが強いです。
山口
日本の育休制度は改正前でもユニセフに世界一と認められた制度ですが、育休取得促進に向けて、加速するタイミングがあまりなかったと感じています。ただ、男性の育休取得率を見ると、2021年度は13.97%になっており、1%台だった10年前からみれば10倍。0.12%だった1996年からみれば25年間で100倍以上。すごい変化ではあります。本人の意識と、周りが容認するという環境の両方が変わってきていることは確かだと感じています。
羽生
私は10年前の2012年、共働きを応援するメディア「日経DUAL」を立ち上げました。子育てのために仕事を休む男性がいなかったから、それを当たり前の世の中にするために、半ば義憤で。その当時、記事で使うイメージ写真のために、男性の育児を表す象徴的な光景を見つけると、必ず撮影していたんです。10年前は月曜日の朝、小児科にずらっと並ぶ列にいるのは十中八九ママで、パパがポツンといると、めちゃめちゃお宝画像だ!と、バシバシ写真を撮っていました。「これがイクメンだ!」って。でも3、4年ぐらい前から、もう撮る気がなくなるくらい、珍しいことじゃなくなってきました。
― 変わってはきているけれど、2021年度の男性の育休取得率はまだ13.97%。何が変わればスピードが上がると思いますか?
青野
イメージとしては、しゃくとり虫みたいに先進的な企業がずっと先に行ってしまい、全然動いてない企業がいるという感覚ですね。いわゆる二極化。全く変わらない企業を動かさないと、全体としては動かないでしょうね。
山口
確かにそうだと思いますが、取組の効果は出ていると感じます。私は育休後職場復帰セミナーなどの社員研修をやっていますが、そういう会社では、会社側からのメッセージが明確に伝わっているため、男性の育児休業取得者が順調に増えています。なかなか動き出せない企業もあると思いますが、事例が増えてくると変わると思うんです。身近な上司や先輩が取ると、一気にみんな取るようになるとも聞きます。
― 小原さんはまさに先輩の事例によって動いたんですよね?
小原
そうですね。育業した先輩パパ社員に「絶対に取った方がいい」と言われたことがきっかけであり、また育業した会社の上司の存在が大きな後押しになりました。だからこそ、私もこの育業の経験をまずは発信して、そして理解してもらいたい。育業1回目の2か月間にわたる生活を社内SNSに投稿したところ、様々な反響がありました。この経験をきっかけに、いいことも悪いことも、このケースはこうやってきたんですよ、というのを全部伝えるのが大事だと感じています。私が先輩や上司パパに後押ししてもらったように、今度は私たちの経験を通じて次の世代の後押しができるようになりたいです。
黒田
私も4か月の育児休業を取って復帰後、名前を知っている程度の後輩に、「今度、育休取るんです。黒田さんが取っていたから、取得を決めました」と言われて、うれしかったです。自分が思っている以上に周りが見ている、影響力があるっていうのを知りましたね。小原さんがおっしゃったように、とにかく広めていくと、取得しやすくなる人がいるんだなあと、実感しました。
意識の違いは、男女差よりも世代差
羽生
令和3年度の内閣府世論調査で「どのような仕事が理想的だと思いますか?」という質問に対して、「私生活とバランスが取れる仕事」という項目を選んだ人を見ると、「性別」による差はわずかで、「世代」による差が一番でした。男女の差にばかり注目して、世代の差に目がいかないのは問題だと思います。
企業は今、人材獲得競争が激しくなってきています。そんな中で、仕事観、幸福観、人生観などの変化が重要になってくる。育業しやすいとか、人生の多様性を認めないと、優秀な人はどんどん離れていきます。その考え方のギャップが大きいのが、男女ではなくて世代だと気づくことが重要です。
青野
すごく腹落ちするところがあります。別の事例にはなりますが、例えば選択的夫婦別姓の問題も、賛成反対の調査をやると、若い世代は男女にあまり差がなく賛成が多い。一方で70代以上は反対が多い。似ていますよね、構造は。ジェンダー問題と言われたけど、実はジェネレーション問題なんだという。
山口
例えば積水ハウス㈱の男性育児休業取得率100%も、社長が北欧に行って、考えを変えて動き出したと聞きます。上の世代でも考えが新しい人もいるので、そういう人たちが、うまく若い人とつながるといいし、若い人も理解してくれる人を見つけて味方につけるというのも大事かなと思います。
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