仕事に家事・育児、次から次へとやることに追われ、心身ともに余裕がなくなると、家族との関係までギスギスしてしまいがちです。そんな状況を脱却するためのカギとなるのが「時間管理」。今回は、女性のキャリア支援をされている一般社団法人 育児キャリアアップ推進機構の代表理事、坂東愛子さんに、家庭での時間管理の秘訣や、タイプ別で考える時間管理のポイントを伺いました。
限りある時間は、お金や家のスペースと同じ
女性のキャリア支援をしていると、「家族のためにあれもこれもしないといけないのに、全然時間が足りない」という子育て中の女性の声を数多く耳にします。情報社会の今は、家事も育児も「こうしたほうがいい」という情報が溢れているので、「ちゃんとやらなくてはいけない」と思う人ほど、やることが増えてしまいます。その結果、時間が足りず、やろうと思っていたのに出来なかったことがあると、落ち込んだり、イライラしたりすることにもつながりがちです。
そんな人には、「時間」を「お金」や「家のスペース」と同じように考えてみることをオススメします。
お金には限りがあり、買いたいものを全て買うことはできません。それは家のスペースも同じです。それほど広くないリビングに大きなソファとテーブルと置いたりはしないですよね。でも、時間の場合は、やりたいことをあれもこれも詰め込もうとする人が多いと感じています。
優先順位をつけて「減らす」「やめる」決断を
時間管理で最初にすることは、優先順位をつけること。「やらなくてはいけない」と思っていることを挙げていき、それに優先順位をつけます。そして、優先順位が低いものからやめる決断をして、増えすぎた「やらなくてはいけないこと」を減らしてみましょう。
実は、ここでつまずく人も少なくありません。そもそも本人は全部必要だと思っていることばかりだからです。ひとりではなかなか決められないという場合は、家族に相談してみることも必要です。
過去にこんな例がありました。毎日リビングに掃除機をかけなくてはいけないと思っていた女性。ご自身は「家族のみんながそうしてほしいと思っているから」と話していたのですが、家族に聞いたら「毎日じゃなくても充分」と言われたそうです。結果、その女性は、リビングに掃除機をかけるのを2日に1回に減らすことができました。
タイプ別で考える時間管理への近道
時間管理を上手にするために、自分や周りの人がどんなタイプか知っておくことがオススメです。自分の傾向が分かると、注意すべきポイントが見えてきます。また、相手がどういうタイプなのか知ると、その相手との摩擦を減らすこともできます。
■ 考え方の2分類 「ゴール追求型」と「フレキシブル型」
「ゴール追求型」:計画を立てるのが好きで、目標やゴールを設定するとやる気が出るタイプ。プロジェクトを確実に達成するのが得意。
「フレキシブル型」:「とりあえずやってみる」ことを重視し、気分や感情で動くことが好きなタイプ。臨機応変でアクシデントに強い。
■価値観の2分類 「他人軸タイプ」と「自分軸タイプ」
「他人軸タイプ」:相手が好きなことを基準にして物事を進めることを幸せだと思うタイプ。周囲と調和を取るのがうまい。
「自分軸タイプ」:自分が好きなものを基準にして物事を進めることに幸せを感じるタイプ。決断が早く迷いがない。
それぞれのタイプを掛け合わせると4つのタイプに分かれます。
●「ゴール追求型」×「他人軸」タイプ
周りに合わせた予定を詰め込み過ぎている可能性があるので、「やることを減らす」ことが大事になってきます。周りを考慮しすぎた予定になっていないかにも注意しましょう。
また、計画通りに進めるのが好きなゴール追求型は、アクシデントや突発的な出来事にストレスを感じてしまうので、予定を詰め込み過ぎないようにして余力を作ることが大切です。2、3日などちょっと長めのスパンで物事を見るようにすると調整しやすく、「3日の間に終わればいい」くらいの心構えでいると気持ちがラクになります。
●「ゴール追求型」×「自分軸」タイプ
4つの組み合わせの中で一番“猪突猛進”で、周りを気にせず、ひたすら目標に向かって突き進むタイプです。周りを見ずに目標に向かって突き進むので、家族がついていけないことが多いです。そんなときは、家族を一つのチームとして考え、目標を家族みんなに理解してもらい、その目標に向かって家族が動いてくれるように、意識や士気を高めていきましょう。家族みんなが意欲的、自発的に一緒に行動していけるようにすると良いですね。
このタイプは、周りの状況を見て、周囲との調和を意識すると、より目標や計画通りに物事が進みます。自分の予定を伝えて、相手の状況や予定も聞くなど、お互いの状況を共有し合う時間を意識的に作ることも大切です。
●「フレキシブル型」×「他人軸」タイプ
「あの人のために、あれがしたい、これがしたい」と目標をあまり決めずに、周りの人に合わせて動くタイプです。やらなければならない目標が決まっている時でさえ、親や友人から依頼があると、すぐに対応してしまい、もともと決めていた計画や目標から外れて行動してしまうことがあります。結局やることが増えてしまい、時間に追われ、本来やろうと思っていたことができなかったり、忘れてしまったり。
このタイプの人にとって大切なのは、大まかな目標と、時には気分だけではなく一歩引いて「あれはやってよかったのかな」「本当に必要かな」と一度考えてみること。
やらなければならないことや目標を忘れないでおくために、手帳を使うこともオススメです。
●「フレキシブル型」×「自分軸」タイプ
気分で動く感覚派で、かつ自分が決めたことで動くので、本人は気分が良くてハッピー!その自由さで周りの人を振り回さないようにするために、家族とは、ルールを作っておくことが調和につながります。気分が乗らなくてもやらなくてはならない家事は、定期的なスケジュールを決め、
・掃除は火曜日と金曜の朝にやる
・食事の買い出しは、月曜日はパパ・木曜日はママが担当
などという具合に、家事が滞りなく進むようルールを作りましょう。
また、このタイプは、ちょっと気になったら「それ、やってみよう!」という具合に、寄り道が多くなりがち。計画性が無いまま動いて、後で「こんなはずじゃなかった」とならないように、大まかなゴールや方向性を決めておくのがオススメです。
家族全体の時間管理には「家庭目標の共有」が必要
家族全体の時間管理も大切です。
一緒に暮らしている家族であっても、それぞれに「やらなくてはいけない」と思っていることもあれば、「やりたくない」こともあります。優先順位も違います。そんな中で時間管理をするのはとても大変なこと。そこで必要になるのが家族で「家庭目標」を共有することだと思います。
例えば、家族旅行で考えてみましょう。
「自分軸タイプ」が行先を勝手に決めてしまい「他人軸タイプ」がモヤモヤしたり、「ゴール追求型」が計画を細かく決めて「フレキシブル型」が窮屈に感じたりすることが起こりがち。タイプの違う人がそれぞれ好き勝手に言いたいことを言っても計画は進みませんよね。だから決める上で目安になるもの、「目標」が必要なんです。
私の家庭では「子供の体験を大切にする」という目標を家族で決めて共有しています。旅行の計画を立てるときでも、まず子供が面白い体験ができる場所やアクティビティからスケジュールに入れていって、他のところを調整しています。こうすることで旅行の内容もスケジュールもスムーズに決めることができます。
ほんの数日間の旅行でもそうなのですから、長い人生を考えた時に、家族みんなで共有できる「家庭内目標」を作った方が、いちいちぶつかり合うことなく同じ目線で話し合うことができ、スムーズな時間管理につながります。
“こうするべき“に縛られず、時には”やめる勇気”を
時代は変わっていると頭でわかっていても、“こうあるべき”“こうするべき”という母親像や父親像があって、心のどこかでそれを完璧にこなさなくてはいけないと感じている人がたくさんいると感じています。だから、時間管理を考える時にも“やめる”という選択がなかなかできない。でも、ずっと全力で全部やることは無理ですよね。どこかで抜きどころを作ることも長い目で見れば重要です。やらなくてはならないことが減ると体力的にも精神的にもラクになります。
時間管理をしっかりすることの最大のメリットは、余裕ができること。
簡単なことではありませんが、家族と穏やかに笑顔で過ごすために、少しずつ頑張っていきましょう!
坂東愛子
一般社団法人 育児キャリアアップ推進機構 代表理事
ママコミュニティマム・スマイル代表
保育園フォレスタ・志村三丁目 園長
1981年生まれ、北海道出身。大手携帯電話会社にてシステムエンジニアを経て結婚を機に専業主婦に。第一子出産後の孤独な育児経験から、ママが社会と繋がる場の創出を目指し、育児女性の社会復帰を支援するママコミュニティ「マム・スマイル」を立ち上げ活動を開始。活動を通じて女性のキャリアや保育の現場の課題を感じ、自ら保育園フォレスタ・志村三丁目を開園。2019年には一般社団法人育児キャリアアップ推進機構を発足し、保育士やママに向けてキャリア支援に関する研修事業を開始。ママに特化した時間管理講座などを行う。