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【インタビュー】鈴木賢志さん
男性の家事・育児参画が進まないのはなぜか?男女平等先進国スウェーデンに学ぶマインドチェンジのポイント

 スウェーデンの社会の基盤の一角をなしている「男女平等」。
育児休業が取得しやすくなる仕組みも充実し、世界経済フォーラムが公表している「ジェンダーギャップ指数ランキング」では世界の4位以内に位置しています。
そんなスウェーデンに約10年暮らして結婚、子育てを経験し、現在は明治大学国際日本学部で教授を務める、鈴木賢志さんに日本で男性の家事・育児参画を進めるためのヒントを伺いました。
家事・育児に対するスウェーデン人と日本人の考え方の違いは何でしょうか?!

スウェーデンの手厚い育休制度と育休に対するスタンス

 スウェーデンは北極圏に跨る地理的背景から非常に寒い国です。 そのため、個人が責任感をもって行動しないと冬を乗り越えることができません。
そのような地政学も影響し、個人のマインドに権利と責任を重視する文化がそもそも備わっていると言われています。

 1960年代頃までは、スウェーデンも男性が働き、女性が家事をする、という文化でした。
しかし、労働力不足や男女平等に向けた運動を契機に、80年代から90年代にかけて男女平等につながる法制度や仕組みが整い、制度を追いかけるように意識も変わりました。
今では、ほとんどの夫婦が共働きで働いています。

 スウェーデンで男性の家事・育児が進んだ理由として、特に手厚い育児休業制度があげられます。
両親合わせて480日の休暇が与えられ、390日まで給与の8割が支給され残りの期間は定額給付が補償されます。
また、日本のように育休期間中は完全に仕事から離れるのではなく、良い意味で仕事とプライベートの境界線を曖昧にしています。
育休を取得していても、業務連絡のやりとりは頻繁に行い、会社が円滑に回るように心掛けています。
あえて線引きを明確にしないことで、長期間職場を離れることに対する不安を減らしているため、育休取得の心理的ハードルが日本と比べ低いと感じます。
性別問わず育休取得が当たり前のため育休取得が昇任昇給に影響を与えることもありません。

日本とスウェーデンの家事・育児に対する考え方の違い

 日本とスウェーデンで男女の家事・育児分担を決定する考え方の違いを見ると、日本では、「家庭の中での効率性からの最適解」を見つけるのに対し、スウェーデンでは、「社会全体の効率性から、家庭内の最適解を求める考え方」が浸透していると感じます。

 「家庭の中での効率性からの最適解」を求めてしまうと、家事が苦手な男性が中途半端に家事・育児をやるより、家事が得意な女性が、一人で家事・育児をやった方が効率的であるという考えに行き着きがちです。
その状況を男性だけでなく女性も是とするケースが多いように感じます。

 一方で、スウェーデンでは家庭の家事・育児分担は、男女どちらが仕事にウェイトを置く方が効率的かという観点から決定されるため、女性だからという理由だけで家事・育児を多く担うことはほとんどありません。

 また、お互いの仕事の繁忙状況にあわせ、家事・育児分担の割合を適宜見直し、男女とも率先して家事や育児を行うなどの考え方を持っているため、常に片方に家事・育児分担が偏る状況が生まれにくいと言えます。

 そうした背景から、スウェーデンでは、性別に関係なく能力を発揮できる人が、活躍できるポストにつくことは当然のことと考えられています。

 例えば、スウェーデン発祥の家具ブランドでは、「家具は女性のほうが興味や関心を抱いている層が多く、そこをターゲットにするのであれば、管理職も女性を多くしたほうがいいのでは?」と考えられ、管理職の半数を女性が占めています。

仕事と家事と育児を共にすることで悩みが共有できる

 スウェーデンの男性の多くは、高校卒業後に大学へ進学する際に家庭を離れ自立をします。
奨学金制度も活発に使われているため、親が子供から手を離すことが文化になっています。

 また、ルームシェアをする学生が多く、若いころから他人と暮らすことに慣れています。
そういった背景もあり、家事は性別に関係なく行うものというマインドになっているようです。

 もちろんスウェーデン人にも家事が苦手な人はいますが、それは男性だから女性だからということでなく、あくまで個人の得手不得手の問題です。
むしろ「家事ができない男性は女性に好かれない。」といった風潮もあるため、男性も家事のスキルを高めるためのモチベ―ションが働きやすいようです(笑)。
「僕は家事ができないから、仕事に専念し、あなたは専業主婦になってほしい」という思想を持つこと自体にパートナーから不信感を抱かれるため、極めて自然に家事・育児を行う文化が形成されています。

 また、スウェーデンでは子供が生まれたら、男性も女性も育児のために育休を取り、やがて仕事に戻るため、子供ができてからもお互いの仕事の悩みを同じ労働者として話し合うことができます。
同様に家事・育児についての悩みも同じ目線で共有することができます。

若い世代が担う家事・育児の変化

 政治や企業が改革を行わないと変化は起きにくいと思うのですが、それでも一人一人のマインド変化によって、社会が変わるきっかけにつながります。

 私は日本で大学の教員をしていますが、今の大学生には仕事と家事・育児を両立したいと考えている生徒が増えてきている印象があります。
女性に家事・育児分担が偏っているというトラディショナルな問題に対しても危機意識を持っている人が多く、今は時代が変化する過渡期であると感じています。

 また、一人一人のアンコンシャス・バイアス(※性別によって社会的な役割が決まっていると考えるような無意識の思い込み)も省みる必要があります。
例えば男性タレントが家事・育児をすることが、ことさらに評価される状況にも違和感を覚えます。
それが当たり前といえる価値観をもてるようになる必要があります。

 今では男女平等の代表国として認知されているスウェーデンですが、元々は日本と同じように性別に対する固定概念がありました。
けれども、世代が変わり意識は大きく変わりました。日本でも夫婦で家事・育児や仕事を行う姿をみてきた子供が、社会の中心を担う時代に変化していきます。
一人一人のマインドが変化すると良いなと思います。