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  5. 第6回:〈会社編〉仕事との両立/会社で始まった働き方改革
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〈会社編〉仕事との両立/会社で始まった働き方改革

目次

子育てマンガ「上手に休むのも大事」

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プロフィール
エイイチ
東京のデザイン会社に勤めた後、フリーランスのイラストレーターに。ゆうばり国際ファンタスティック映画祭インターナショナル・ショートフィルム・ショウケース部門優秀アニメ賞を受賞するなど、アニメ、漫画、イラストの制作で頑張るパパ。

〈会社編〉仕事との両立/会社で始まった働き方改革

 2019年4月から「働き方改革関連法」が順次施行されます。違反には罰則もあります。これは、多様な働き方を実現、休日を増やし、長時間労働を抑制しながら、ライフ・ワーク・バランスの取れた働き方を選択できるような社会をつくっていくことを目指すものです。この流れのなかで、自分たちの実情に合わせた新制度を採り入れ、働き方改革を進める企業も増えてきました。改革にはどんなメニューがあって、どう運用しているのか。改革を積極的に実践する企業の取り組みを紹介します。

働き方改革関連法とは?(概要)

 

(1)5日間の年次有給休暇の取得を企業に義務付け

年次有給休暇を最低5日以上付与する必要がある。

(2)時間外労働の上限規制(中小企業は2020年4月から施行)

時間外労働の上限は月45時間、年360時間が原則に。特別な事情がある場合でも、休日労働を含めて月100時間以上の時間外労働は禁止になる。

(3)勤務時間インターバル制度の導入

前日の終業時刻から始業時刻までは一定時間の休息の確保に努めなければならない。

(4)同一労働同一賃金(中小企業は2020年4月から施行)

同一企業内において正規雇用、非正規雇用で基本給や賞与などの不合理な待遇差が禁止に。

 

*詳細は厚生労働省ホームページ参照
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000148322.html

 

PART 1
働き方改革先取り企業
パパも家事育児ができる「仕組み」事例集

ワークショップの風景写真イクメンたちが集まる社内イベント「Fathersワークショップ」

FILE:1株式会社オカムラ

イクメン社員の情報交換をプロジェクト化

 ワークインライフ(Work in Life)を重視した「働き方改革」に積極的に取り組む家具・産業用機器などの製造・販売を行うオカムラ。2016年に「ワークライフバランス推進委員会」を設置したのを皮切りに、さまざまな施策を打ち出しています。

2016年ワークライフバランス推進委員会設置。
ダイバーシティ推進プロジェクト「ソダテルプロジェクト」発足。
2017年育児・介護のための「在宅勤務制度」を導入。
フレックスタイム制度のコアタイムを廃止。
業務改善・意識改革プロジェクト「働き方カエル!プロジェクト」発足。
2018年働き方改革の取り組みを「WiL-BE(ウィル・ビー)」と呼び、さらなる推進。
「Fathersワークショップ」を開催
上司を巻き込み、イクメン支援

 ダイバーシティ推進を目的とした同社の「ソダテルプロジェクト」には、2018年度、新たに3人のイクメン男性メンバーが加入。多様性を容認する仕組みとして、「働くパパの家事育児参加」を積極的に応援しています。

 その男性メンバーが中心となって企画したのが、2018年夏に実施した「Fathersワークショップ」。集まったのは、小学生までの子供を持つ男性社員約30人と、その上司5〜6人。

 「子育て中の男性社員に、事前に家庭での家事育児分担についてご夫婦で話し合ってもらい、それをもとにそれぞれの働き方の課題や将来像を意見交換しました。制度や仕組みを利用しながら仕事と子育てを上手に両立するイクメン社員の話を聞くなど、情報交換やネットワークづくりにとてもよい機会となりました」(管理本部人事部ダイバーシティ推進室室長・望月浩代さん)

 もうひとつのポイントは、このプロジェクトに上司を巻き込んだこと。 「部下の子育てや家事への課題、仕事との両立への悩みをざっくばらんに知ることで、上司の意識改革にもなりました。今後のコミュニケーションに大きく役立つはずです」(望月さん)

 ソダテルプロジェクトでは、このプログラムをパッケージ化し、全国に展開していく予定です。

男性の家事・子育て支援の制度を充実

 同社では、子育て・介護などの事情を抱える社員の場合、週1回の在宅勤務が可能です。現在、100人の利用者中、男性社員も30人ほどいます。また、全国にある他拠点を外出時に利用する他拠点勤務で、時間効率アップも推進中です。

 「昨年7月には、800人の社員が試験的にテレワークを利用しました。ICTツールを活用して、在宅や他拠点勤務でも問題ないという意識が社内に生まれています」(望月さん)

 今後の課題は、こういったさまざまな制度への認知度がまだまだ浸透しきっていないことです。

 「2週間に1度、新しい制度や活動内容などを社内イントラで紹介しています。社内報でも制度を活用している社員の声を紹介。制度を理解するだけでなく、ほかの社員のケースを具体的に知ることで、『自分も使えるかも? 使いたい!』と思ってもらいたいですね」(広報室・中村寛子さん)

 

FILE:2株式会社吉村

残業アラームや有給計画の見える化など実施

 食品包装資材の企画・製造・販売を手がける吉村。社員数220名ほどの中小企業でありながら、積極的に働き方改革に取り組もうと、東京都が推進する「TOKYO働き方改革宣言企業制度」にも参加しています。

 「残業を減らそうという発信だけでは、勤務時間を短縮することは難しいのが現実です。採用も厳しくなっている中、いかに生産性を上げるかが課題だと思っています」と語るのは、総務部次長の石井佳代子さんです。

 2018年3月には在宅勤務を導入するなど、具体的な取り組みがスタートしました。

残業アラーム制度や「モーカエロー運動」ポスターなどの取り組み

「モーカエロー運動」ポスター社を挙げての取り組みとわかるように「モーカエロー運動」ポスターを掲示

 「家庭の事情で会社への通勤が難しくなったデザイナー職の女性社員が仕事を続けられるようにと、在宅勤務の導入を決めました」(石井さん)

 在宅勤務は、同社が働き方改革のために導入した「テレワーク制度」のひとつ。外出先でモバイルワークが行えるシステムも整え、同社が課題としていた生産性アップにもつながりました。

 2つ目の施策としては、働きすぎを防ぐ「アラーム制度」です。月の残業に上限を定めて周知し、限度に近づいた時点で、社員とその上司にメールで通知します。 「アラーム制度をはじめてから残業時間は減っており、現場で柔軟に仕事を分け合うなど、協力体制の構築につながりました」(石井さん)

 3つ目の施策が「年次有給休暇の計画的付与制度」です。1年間に取得する有給休暇のうち、5日分を期始めである10月に申請。誰がいつ休むかは、全社員が持つ「経営計画書」というノートに明記して共有しています。これにより、スムーズに事業計画や生産計画を進められたり、会議ができるといいます。「最初から計画的に有給が決まっていることで、社員も休みを取りやすくなっています」(石井さん)

 さらに社内には、「モーカエロー運動」ポスターを掲示して、社員への啓蒙を進めています。

会議のための時間を短縮する工夫

 同社では以前からユニークな会議術を採用しており、それも働き方改革に一役買っています。会議冒頭に参加メンバー全員がその場で出されたテーマについて20秒で語るアイスブレイクの時間を作っています。

 「発言する訓練と同時に、時間を意識する感覚が身につき、会議の短縮になりました」(石井さん)

 ICTを駆使した会議システムの導入では、会議のための出張などの移動時間をなくし、情報共有にも効果を上げています。

たったまま会議している写真時間短縮のために立ったまま会議するなどの工夫も取り入れる

 

FILE:3株式会社JTB

会議時間圧縮など生産性向上のスキル

3年計画で進める「ワークシフト2020プロジェクト」

 旅行会社であるJTBの働き方改革をリードするのが、部門横断型の「ワークシフト2020プロジェクト」です。本社の各部門や事業本部の責任者がメンバーとなり、制度やデジタルツールなどの働き方を変えていくための環境整備を行っています。その具体策として、「ワークダイエット」「ワークシンプル」「ワークスマート」というステップを設けて、段階的に改革を進めています。

2018〜2020年までの「ワークシフト2020」

ワークダイエット・・・業務を可視化して本質に絞る。会議、資料などの無駄な業務を見直す。
ワークシンプル・・・情報を整理してスピードアップ。ICTなどを活用して業務の流れを変える。
ワークスマート・・イノベーションを生み出し、価値を共創する。

ワークシフト2020のフロー図

 また、各職場では「Smileプロジェクト」が中心となり、具体的な取り組みにチャレンジしています。2018年には、Smileプロジェクト委員を対象とするタウンミーティングを全国13カ所で開催しました。

 2018年度は、特に注力してきたのが「ワークダイエット」です。

「ワークダイエット」の具体例

会議を減らす・・・時間を短縮、人数を厳選、資料の事前確認、スタンドミーティング
資料を減らす・・・部内用資料の廃止、共有資料の一元管理、ペーパーレス
移動を減らす・・テレビ会議、在宅勤務推奨
報告を減らす・・報告会議を廃止、外出中や在宅勤務中の報告はチャット、1on1ミーティングの活用、報告書面のフォーマット化
作業を減らす・・資料を極力流用、RPAでルーチン削減、議事メモは会議中に作成

※RPA:ロボティック・プロセス・オートメーションの略。ホワイトカラーの単純なデスクワークをロボットで自動化する。

 人事企画担当副主幹の鰐部(わにべ)慶太さんは、「18年度はできるところからやってみようと、取り組んできました。ワークダイエットでは、今あるさまざまな無駄を省くのがメイン。そのために、社内のICT環境を整備して、スケジュールや情報の共有も進めています。在宅勤務では育児、介護以外の理由でも利用できるように条件を拡大しています」と取り組みについて語ります。

 直行直帰や外出先で他の支店を利用できるようにして移動時間を減らす、定例のチームミーティングを減らして1対1のミーティングを増やすなども、取り組みの例です。また、本社の1フロアをコミュニケーションスペースとして開放し、簡単なミーティングや仕事に集中しやすい環境も整えました。

 「全社を上げて働き方改革やダイバーシティ推進に取り組むことで、社員の意識も変わりつつあります。男性の育休取得への関心や意欲も高まっています」(鰐部さん)

拡充されたミーティングスペースの写真自由にミーティングに使えるスペースも拡充。作業に集中できるよう個室ブースもある

専門家コラム

塚越学さん働き方改革は、生産性向上とコミュニケーション改革が両輪
東レ経営研究所 上席シニアコンサルタント 塚越 学さん

 残業時間の削減、テレワークやサテライトオフィスなど働く場所の多様性、フレックスタイム、短時間勤務、時差勤務など働く時間の柔軟性、スマホやタブレットなど、ITツールの導入など、東京都の多くの職場で働き方改革に着手しています。ただ、労働時間を減らせばいいと、掛け声だけに終わってしまっているところも少なくありません。どうすれば、労働時間を削減できるのか、柔軟な働き方ができるのか、これまでの業務の質と量の見直しにまで踏み込む必要があります。
 働き方改革は、生産性向上とコミュニケーション改革が両輪です。残業を減らした上で、収益を上げるためには相当な工夫が必要になります。長年やってきた業務プロセスを見直して生産性を上げようという決意と覚悟が必要。さらに上司や部下、取引先にも働き方改革を理解してもらうこと。業務の課題や問題点は現場が知っていることが多いので、本音でコミュニケーションを取って、課題を洗い出してアクションにつなげていくことなどが大事になってきます。

PART 2
あなたの会社の
「イクボス」チェック

 あなたの会社の上司は、イクメン社員を応援するイクボス? それともやる気を下げるダメボス? 多様性が進む社会で、誰もが幸せに働ける環境づくりをリードするイクボスになるためのチェックリストをNPO法人ファザーリング・ジャパンの安藤哲也さんにアドバイスしてもらい作成しました。

イクボスなら8つは
クリアしたいね
 安藤哲也さん

イクボス度チェック15

  • 効率的な仕事を得意とし、時間や人のマネジメント能力が高い。
  • 短時間、少人数、オープンコミュニケーションのチームマネジメントができる。
  • 会議や打合せの回数、人数、時間を減らす工夫をする。
  • 自分から夕方の会議や打合せなどを入れないなど、1日のゴール時間を設定する。
  • ITツールを積極的活用して、チーム全体の生産性をアップする。
  • 誰か一人がいなくてもリカバリーができるチームづくりをする。
  • 業務を常に見直し、「やらなくてもいいこと」を思い切って止められる。
  • 子育てなどの理由で早く帰る、突発的に休む部下に、「帰ってよし!」「休んでよし!」と上司として快く言える。
  • 部下の家族構成など、仕事以外の事情をある程度知っている。
  • 部下が何時に退社する予定なのかなど、ライフ情報をある程度、知っている。
  • 仕事やプライベートを含めて部下の話をよく聞き、コミュニケーションがとれている。
  • 子育て中の部下のキャリアへの不安を解消し、心理的な安心感を与えられる。
  • プライベートの事情についても、部下が自分から相談しやすいような信頼関係を築く。
  • 自分自身の出世よりも、部下やチーム全体の成長を目標とする。
  • 自らも働き方改革を実践し、アフター5や休日のプライベートを積極的に楽しみ、ワークライフバランスの重要性を示せる。

部下が自分から相談しやすい信頼関係をつくる

 育児だけでなく、介護など、さまざまな事情を抱えた社員がいるのが、今の企業です。それぞれのプライベートな事情と仕事を上手に両立できるように支援することが、管理職である「イクボス」に求められていること。まずは、その点をきちんと理解し、ダイバーシティで幸せに働くためにどうするべきかを常に意識できるボスであってほしいですね。

 昭和時代のような年功序列で、上司の残業に部下も付き合うような働き方は、今の時代では無理です。しかし、今の50代あたりの世代は、モーレツ社員がよしとされていた最後の世代で、育児経験も少ない人がほとんどではないでしょうか。だからこそ、ボス自身のマインドセットがものすごく重要だと思います。それはイクメン社員だけでなく、ボス自身にとってもプラスになるはずです。

 ポイントとなるのは、仕事の効率アップ、チーム体制の構築、そして社員のモチベーションのケアです。特に、将来のキャリアパスへの不安を払拭する「心理的安全性」は、社員の能力を引き出し、結果的に生産性アップにつながる大きな要素でしょうね。

安藤哲也さん

アドバイザー
安藤哲也さん
FJファウンダー/代表理事、NPO法人タイガーマスク基金代表理事、株式会社ライフシフト・ジャパン代表取締役社長。二男一女の父親。出版社、書店、IT企業など9回の転職を経て、2006年にファザーリング・ジャパンを設立。「育児も仕事も人生も笑って楽しめる父親を増やしたい」と、年間200回以上の講演や企業セミナー、父親による絵本の読み聞かせチーム「パパ’s絵本プロジェクト」などで全国を飛び回る。 “父親であることを楽しもう”をモットーに地域でも活動中。

PART 3
東京都の
「働き方改革」施策を活用

 東京都では、「働き方改革」を進める企業、パパが家事・育児をしやすい環境づくりを応援しています。

「TOKYO働き方改革宣言企業」制度
https://hatarakikata.metro.tokyo.jp/

ケーススタディブック

 「TOKYO働き方改革宣言企業」制度とは、働き方改革を積極的に推進する都内企業を支援するもの。パパの育児や家事参加を促すには、長時間労働の削減や年次有給休暇の取得促進が必要です。それには企業の取組が不可欠なため、働き方や休み方の改善を宣言する企業を募集しています。この制度は、2016年度からスタートし、2017年度まで毎年1000社以上が働き方改革を宣言しています。

 働き方改革を宣言した企業は「TOKYO働き方改革宣言企業」ウェブサイトでその目標や取り組みを公開されます。奨励金を活用して、宣言や、個別の制度整備をすることもできます。また、宣言した後も専門家によるさまざまなサポートが充実。企業の働き方改革への取り組みをスタートから運用までバックアップします。

 企業の生産性やブランドイメージの向上、採用へのプラス効果など、働き方改革による多くのメリットをもたらす制度といえるでしょう。

 2017年に宣言企業となった株式会社JTBでは、「TOKYO働き方改革宣言企業であることを社内で周知でき、同じ方向を向いて改革を進められるのは大きい。また、生産性向上支援コンサルティングにより、専門家から無駄を省く業務の可視化(BPR)の指導を受けられて助かりました」(JTB人事企画担当・鰐部慶太さん)と、この制度のメリットを説明しています。

TOKYO働き方改革宣言企業の2つのパターン(奨励金を活用する)
TOKYO働き方改革宣言企業の2つのパターン(奨励金を活用しない)
「働き方改革宣言」で社内外に働きやすさをアピール

 働き方改革宣言をした企業には、目標や取り組み内容を記載した「宣言書」を送付。社内の掲示などに活用して、意識改革に役立てることができます。宣言書を東京都のウェブサイトにて公表。各企業の取り組み事例などを紹介します。

「働き方改革宣言奨励金」で制度整備も

 (※2019年度の奨励金の募集スケジュール等は、決まり次第「TOKYO働き方改革宣言企業」ウェブサイトに掲載予定)

働き方改革宣言事業

 働き方改革宣言として目標や取り組み内容の設定を行った企業に対して、30万円の奨励金を支給。

制度整備事業

 働き方改革の取り組みとして、フレックスタイム制度やテレワーク制度、時間単位での年次有給休暇制度、連続休暇制度などを整備した企業に対し、その整備状況により最大40万円の奨励金を支給。

宣言企業への手厚いサポート

生産性向上支援コンサルティング

 専門家による無料コンサルティングを実施。業務改革、IT推進、生産管理・設備、人材育成・教育などについて相談できます。(最大5回訪問)

働き方改革助成金

 TOKYO働き方改革宣言企業が、新たに整備した制度について、要件を満たす利用実績があった場合に助成金を支給。1制度10万円、1企業あたり最大40万円。

専門家による巡回・助言

 宣言企業を専門家が訪問し、取り組み状況をヒアリング。働き方改革へのアドバイスを行います。

働くパパ・ママ育休取得応援奨励金

 従業員が育児休業を取得することを支援した都内の企業向けの奨励金制度。「働くママコース」と「働くパパコース」の2種類があります。

 特に働くパパコースでは、男性が育児や家事に参加をしやすい職場づくりを後押し。厚生労働省の2017年度「雇用均等基本調査」によれば、男性の育児休暇取得率は5%程度にとどまっており、期間も短いのが現実です。男性がもっと長期間の育児休暇を取りやすくなることを目指します。

働くパパコースの活用イメージ

(15日以上の育児休暇を取得した男性従業員がいる場合)
育児休業連続15日取得25万円、15日取得以降15日ごとに25万円加算・上限300万円働くパパコースの活用イメージ

働くママコースの活用イメージ

(希望する期間(ただし1年以上)の育児休暇を取得した男女従業員がいる場合)
125万円働くママコースの活用イメージ

 

パパたちにエールを!vol.6

まず、働く人の幸せがあり
それを継続するために会社がある〈後編〉

青野慶久さん (サイボウズ 代表取締役社長)

(※第5回からの続き)
 私が育児休業を取る前からサイボウズの中で働き方改革をやろうとは言ってたんですが、その頃は私自身も古い考え方のままだったんですね。それが、私が育児休業を取ってからは、社員も帰りやすく、評判が良くて、考え方も変わりました。

 3人目が生まれた時は、育児休業でなくて、短時間勤務を半年くらい取りました。社長が16時に帰ると、重要な会議もそれまでに終わるし、短時間勤務の人も出席できるとこちらも好評でした。

 育児休業というのは、実は企業側にも取得する側にも、負担があって、企業側は完全に抜けられるので、引き継ぎも含めそれなりの対応が必要になり、育児休業を取る方も、自分が抜けてまた復帰というのはハードルが高い。1日の労働時間の長さだけ調整するのであれば、双方とも負荷が少ない。

 これは家庭にとっても良くて、私も3人目の時に時短勤務を取ったことで妻に大いに喜ばれました。子育てをしていると、毎日何かしら起こる。熱が出たとか、インフルエンザだとか、怪我したとか、いつどんな呼び出しがかかるかわからない。なので、1週間、ひと月休むよりは、少なくとも半年、1年時短勤務の方が、はるかに家庭の中で戦力になるわけです。短時間勤務で毎日お迎えに行ってくれる、スーパーに買い物に行ってくれる方が、日々戦力になる方が、いいみたいですね。

 一人目の時に一部、企業のトップが会社を空けるとは、危機管理的にいかがなもんかという、ご批判もありました。でも、地球の反対側にいるわけではないので危機が起きたら会社に出ます。

 もっとも、それまで22時まで仕事をしていたので、16時退社となると、仕事が溢れるわけです。自分で全部やるのは無理。そこで私も発想を変え、私の仕事もチーム制にしました。権限移譲をすると、任された方もやる気が出るし、スピード感も出てきます。誰かでないとできないという仕事がボトルネックになってワークシェアを阻害します。これから育児、介護に限らず、制限のある人も一緒になって働いていくためには属人化させないこと。これがポイントかなと。個人戦からチーム戦と言っているんですが、営業がそうですね。営業は自分のお客さんを囲みたがるけれど、これをやらせない。誰といつ会ったか、何を話したかをすべてシェアすると、営業も残業時間がどんどん減っていきます。

 いろいろな人が一緒に働くことを、私は石垣に例えるんですけど、みんなバラバラの石で使いづらそうに見えて、はまると結構強い。午前中働ける人と午後しか働けない人を合わせれば、一人で働くよりも効率が良かったりすることもあります。

 社内の働き方改革を進めるうちに、「満員電車に乗りたくないので在宅勤務にしてください」「副業したいのでサイボウズで働くのは週3日にしたい」と言ったびっくりする意見も出てきます。でも、その人の人生にとっては、重要なことで、だからこそ、勇気をもって私のところに言いに来てくれている。それを実現できる場所を作れば今まで以上にモチベーションが上がって、活躍してくれる。その構造に気づくのにしばらく時間がかかりましたけれど、やってみるとこれでいいんだと思いました。

 育児休業も私が最初でなく、残業なしルールも含めどんどんみんなが改革を進めてきた。私もそこに便乗した。最初の一人がいたから実現した。イクメンの流れもあり、今、風向きが変わってきています。男性の短時間休暇も時短勤務も社内に前例がないならやったほうがいい。歴史に残ります。この会社の男性の短時間勤務を切り開いたのはあの人だと。5年後には人事部長になっている。リスクとっていくわけですから会社のリーダーにもなれる。「周りでやっていないならやったほうがいいよ」と耳元で囁きたいですね。

あおの・よしひさ

1997年、会社の上司だった高須賀宣氏、大学の先輩だった畑慎也氏と3人でサイボウズを立ち上げる。社内のワークスタイル変革を推進し離職率を6分の1に低減するとともに、3児の父として3度の育児休業を取得。また2011年から事業のクラウド化を進め、売り上げの半分を超えるまでに成長。総務省、厚労省、経産省、内閣府、内閣官房の働き方変革プロジェクトの外部アドバイザーやCSAJ(一般社団法人コンピュータソフトウェア協会)の副会長を務める。著書に『会社というモンスターが、僕たちを不幸にしているのかもしれない。』(PHP研究所)などがある。